第2回シンポジウムの実施報告と概要

ご挨拶

 (一社)イノベーションハブは、第2回目のシンポジウムを去る10月27日に開催しました。前回(5月10日)は、西村康稔経済産業大臣、義本博文部科学省次官(当時)、ユーグレナ出雲社長などをお招きし、社団のキックオフとして大変貴重なお話をいただきましたが、今回はそれに続くシリーズです。

 現内閣の最重要課題の一つである、イノベーション政策の動向、スタートアップ企業の育成・援助、GX(グリーントランスフォーメーション)からみたイノベーションなどについて、村井英樹内閣総理大臣補佐官、和田篤也環境省事務次官からお話をいただくとともに、伊丹理事長、日詰静岡大学学長、丹野Sustech社長からも、イノベーションプロセス全体の中でのスタートアップの役割、静岡大学の産学官連携の取り組み、脱炭素戦略を担うスタートアップとしての目標と課題等について順次お話いただきました。当シンポジウムには、多くの皆様に御参加いただき、また、参加された方々からは、今後のイノベーションハブとの連携等についても関心をお示しいただいております。引き続き、シンポジウム、勉強会など、皆様の為になる活動を継続して参りますので、皆様のご協力、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

 なお、各講演等の要約は、以下をご参照ください。

〇村井総理補佐官
 我が国の低迷の要因は、日本企業はじめ既存組織の硬直化にあるのではないか。近現代史を紐解いても、組織が硬直化し、「抜擢」と「挑戦の促進」がなくなった時に、我が国は下り坂を迎えている。スタートアップこそが、「組織の硬直化」と「停滞」にあえぐ、我が国の閉塞感を打ち破るドライバー、特に、Deep Techを基にした大学発ベンチャーは、高齢化・人口減少・環境問題などの社会課題の解決にも貢献する「救世主」的な存在。 岸田政権として全力で応援させていただきたい。 

内閣総理大臣補佐官 村井 英樹(むらい ひでき)
1980年生まれ、浦和市(現さいたま市)出身。東京大学卒業。財務省入省後、ハーバード大学大学院修了。2011年、財務省退官(主税局参事官補佐)から政治活動をスタート。2012年初当選。2016年 に歴代最年少で自民党副幹事長に就任。2021年より自民党歴代最年少で内閣総理大臣補佐官に就任、現職を務める。

和田 篤也 環境事務次官
 社会変革のため、①脱炭素(カーボンニュートラル)②循環経済(サーキュラーエコノミー)③自然再興(ネイチャーポジティブ)の3つの移行により、経済社会を再設計することで地域循環共生圏(ローカルSDGs)を創造することが大切。移行を支える取り組みとしては、イノベーション、ESG金融・ナッジなどが極めて重要。その際、生産者サイドのみならず、ユーザーオリエンテッドという視点を忘れてはならない。地域脱炭素は、地域課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に貢献。地域脱炭素ロードマップは、地方からはじまる、次の時代への移行戦略。

 CO2排出削減技術のイノベーション事例として、既にリチウムイオン電池、ZEB、水素燃料電池バス、AI空調など多くの事例が出てきている。と同時に、ライフスタイルイノベーションと社会ルールのイノベーションも重要。脱炭素先行地域を、2025年度までに少なくとも100か所地方公共団体から選定し、脱炭素ドミノ起点を創出する予定。環境省としては、フェーズに応じた新技術の支援策を各種用意し、研究開発から、製品化までを視野において支援を実施。スタートアップ支援の取り組みとしても、スタートアップ大賞などの表彰制度、スタートアップ特化型の補助金を創設するなど支援策を拡充中。

 また、環境研究総合推進費、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金なども創設し多方面から強力に支援する体制を構築、さらに(株)脱炭素化支援機構を立ち上げ、脱炭素事業活動等に対する資金供給の円滑化を図ったところ。

環境事務次官 和田 篤也(わだ とくや)
昭和38年生まれ、北海道出身。北海道大学大学院工学研究科修了。環境省地球環境局地球温暖化対策課長、再生・資源循環局総務課長、大臣官房審議官、大臣官房政策立案総括審議官、総合環境政策局統括官などを歴任。2022年7月より現職を務める。

国際大学学長 一橋大学名誉教授 イノベーションハブ 理事長 伊丹 敬之
 イノベーションとは:技術革新の結果として、新しい製品やサービスを作り出すことによって人間の様々な生活を大きく改変すること。技術開発だけでなく、市場で実際に受容され、人々の生活を変えるところまで結実して本当のイノベーション。イノベーションには3段階あり。それぞれに背後の社会力学あり
1.筋のいい技術を育てる(大学の研究室ポリティックス等)
2.その技術の市場への出口をつくる(顧客の心理学、供給者の経済学、大学TLOの時々の機能不全)
3. 社会を動かす(社会のドミノ効果を作る必要性、抵抗勢力との闘い)

【スタートアップの社会的役割】
いい技術の市場への出口を作るのが主な役割で、大学、大企業まわりにそのネタがあることが多い。要は、いかに筋のいい技術にアクセスできるか、顧客のニーズをいかに適切に把握できるかである。GXに関しては、大型の技術開発、社会を動かすことが必須ゆえに、特に国、大企業の果たす役割が大きい

【イノベーションハブの役割】
大学にある筋のいい技術のタネを市場への出口まで届ける水路の確保が重要
①大学から市場までの水路の確保、市場という畑に大学にあるタネを届ける道筋の確保、畑の入り口機能は企業、スタートアップが担う。
②市場での開花にある障害の除去、市場への出口には、制度面、資源面など様々な障害があるが、これをどう取り除けるかが課題。

 社会が動くまでの関係者の間の「関係づくり」が大切。大学と市場をつなぐ役割を持つTLOを巻き込んだ「きめ細かな」関係形成が水路づくりに必要。ハブの役割は、関係形成のための出会いの場の提供。TLOはじめ関係者の心構えとして、孫子の言葉が参考となる。「勝ちを知るに五あり」、特に「将の能にして君の御せざる者は勝つ」。スタートアップには、「戦いは、正をもって合い、奇を以て勝つ」などの言葉。

国際大学学長 一橋大学名誉教授 イノベーションハブ 理事長 伊丹 敬之(いたみ ひろゆき)
カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了、経営学博士。スタンフォード大学経営大学院客員准教授、一橋大学商学部教授、INSEAD客員教授、ザンクトガレン大学客員教授等を歴任し、日本の経営学界において、日本企業の実証研究を第一世代として行った。

静岡大学 日詰 一幸 学長
 静岡大学としての産学官連携の取り組みについて。まず、大学の組織、人員などの概要について説明があり、来年グローバル共創科学部が創設されること、光応用分野、カーボンニュートラル科学分野など研究重点4分野を中心として組織的研究を推進していること、重点研究分野、プロジェクト研究所などの取り組みの紹介、スタートアップエコシステム形成支援の状況、静岡大学発ベンチャー41社の活躍をはじめ、大学の将来の社会・産学連携将来構想などについて説明があった。

静岡大学 学長 日詰 一幸(ひづめ かずゆき)
1955年生。長野県出身。名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程中途退学。名古屋音楽大学専任講師を経て、1996年静岡大学人文学部助教授。2000年より静岡大学人文学部教授(2012年学部名称変更により静岡大学人文社会科学部教授)。この間、2000年4月から2001年9月までニューヨーク市立大学都市調査センター客員研究員として大都市における政治行政および非営利組織の役割と機能に関する研究に従事。2021年4月より静岡大学学長に就任。専門は、行政学、地方自治論、NPO論など。

株式会社Sustech 丹野 裕介代表取締役社長
 “脱炭素化実現”を日本の武器にするとの目標を持ちつつ事業展開を図っていること、会社の主な事業の説明、脱炭素市場の概況、再エネ市場の概況、更なる再エネ普及のための課題、会社としての今後の挑戦、課題、イノベーションハブとの連携などについて説明があった。

株式会社Sustech 代表取締役社長 丹野 裕介(たんの ゆうすけ)
早稲田大学卒業後、リクルート入社。その後、2012年に株式会社Tryfunds創業。
Tryfundsの事業を通じ、カーボンニュートラル化に関する課題意識を強め、テクノロジーを活用した企業と社会のGXを効率化させるため、2021年6月に株式会社Sustech設立。共同代表に就任。